昨日の続き
突然の知らせにびっくりしたけど、Mさんがオフィスに挨拶に来てくれて経緯を話してくれた。
Jさんは私のうちの隣に住んでいるの。昼にうちにご飯を食べに来て、夜になると自分の家に帰る。私は一階で本を読んで眠るときに2階に上がるの。すると2階のJさんの部屋に明かりがついていて「あ、まだ本を読んでるんだなー」とチェックをするの。
でね、いつもどおりに朝の7時5分前にJさんに電話をかけたの。いつもお互い「生きてるかなー」と確認取り合うのよ。でも、彼女は出なかった。10分経ってもう一度かけるけど、応答なし。
これは靴を履いて見に行かなくっちゃ、と思ったの。
2階に上がるとJさんはベッドで横たわっていた。寝てるんだよね、と触ったらまだ冷たくはなかったけど、息がなかった。
111(救急の電話番号、警察と消防もかねている)にかけて、一人救急隊員スタッフの人が来てくれた。で、死亡宣告をしてくれた。
その後に、警察官が3人きて一応事件でないか色々聞かれたり、家の様子を確認していた。それで、やっとJさんを家から保管所に連れて行くけど、一緒に来るかと聞かれた。「やめておきます」とこたえた。
やることがいっぱいあるのよ。Jさんは前から葬式はしたくない、って言ってたの。でも、アメリカの弟さんの意見も聞かないといけないし、お墓は?家は?財産分与はなどなど、やらなきゃいけないことが目白押し。
だからね、まだちゃんと悲しんでいないんだ。
Mさん、ショックがあまりにも大きすぎて、きっと気持ちが追いつかないまま、やらないといけないことを無理してやっているんだろうな。
「そばに助けてくれる人はいるの?ご飯は食べてる?」とマネージャーが聞くと、
近所の人達が助けてくれる。だけど、やらないといけないことは結局は自分しかできないから。でもね、本当に家の通りのご近所さんはいい人たちなの。大丈夫。食欲はないから、あんまり食べてないかな。
「えー、クッキーでも今食べる?」と私は腰を浮かせたけど、「大丈夫、家に帰ってからちゃんとしたものを食べる。約束する」と言ってMさんは微笑んだ。
そこに、JさんとMさんのグループの一人がやってきてお悔やみを言っていた。
経緯を話し終わってようやく、気持ちが和らいだのかMさんは二人の出会いのことを話し始めた。
もう50年位以上のことかしらね、私は国からロンドン、カルカッタ、モスクワ、ニューヨークと派遣されていたの。Jさんもロンドンに派遣されて来ていた。そこで出会ったの。彼女もモスクワに行っていたりして共通の話で盛り上がったわ。そして、ニューヨークに派遣されたときに、またもやJさんとばったり出会ったの!もう信じられなかった。それで随分と仲良しになったのよ。
私が自分のポストから離れ、ニュージーランドに戻ったとき、なんとJさんはクライストチャーチに派遣されたの。もう、びっくり。それで、なんやかんやあって、私がウエリントンに腰を据えたときにJさんから、「あなたの隣の家が売りに出ているんだけど、私が買ってもいいかな?」と聞かれたの。「もちろん!」って本当にこんなことってあるのかしらと思ったわ。
それからは、事故で運転できなくなった私を自分の車に乗せて色んなところに連れて行ってくれた。彼女は私の運転手。私はお昼を作って彼女にごちそうをするの。いろんなことを一緒にして、本当に本当に楽しかった。
そして毎日、お互い生きてるかなーって確認してたのよ。だから、夜も「あ、2階に上がっているな。あ、まだベッドルームの明かりがついている。本を読んでいるんだな」ってうかがっていたのよ。
そういうMさんに、あとから参加したKさんが「だってあなた達スパイだったんだもんねー。覗くのは得意よね」とからかった。みんなでははは、と笑った。
そうだ、1960年代で女性が単身で、海外の大都市に国から派遣されるってまだ珍しかったはず。そりゃースパイってことも考えれるよね。え?まさかね。あはは。
特にニューヨークは楽しかったそうだ。そうだよね、ふたりとも水彩画をこよなく愛し、優しい色使いで色んな景色を描いている。二人がおしゃべりしながら描いているのを午後の日差しを受けながら、かわいく一緒にいるのを見るのが好きだったよ。私は木曜日の午後が一番好きだよ。だってJさんとMさんに会えるから。
二人が出会って、珍しいものをみたり、アートを見に行ったり、美味しいものを食べたり、自分たちが仕事で行ったところの話をたくさんしている。そんな様子が想像できるよ。いつもかわいく笑っている、ちいさなJさんとMさん。若いときはもっと「バリバリ感」あるワーキング・ウーマンだったのかな?色々と想像してしまう。
そうやって、仕事で活躍して世界を楽しみ、年をとったらお隣に住んで共通の好きなことを一緒にする。でも、個人のスペースはちゃんととっていて、かわいく、楽しく生活をするっていいなー。そんな心を許せる人に巡り会えて良かったね。
働く女性に人気のシャネルスーツとか着たのかな。こんなツイードで作ったものを着てたりして、と想像する。いつも素敵なファッションの二人

出典元 「スタイルは永遠」――ガブリエル シャネルが生み出した6つのファッション・レジェンド | ファッション | ELLE [エル デジタル]